はじまり

何かを書きたいと思うことはしばしばあって、いざ書いて、書き終わって、例えばWeb上で公開しよう思うと、躊躇する。これが何のためになるのか、誰が見るのか、見たらどうなるのか、と考える。そんなことが長く続いていた。

「正しいこと」を探してきた。誰が指差してくるわけでもないのに。誰にもああだこうだ言われたくない。でも、「みんな」にとって正しいことなどはじめからなくて。自分にとって心地よいかどうか、結局はそれを選ぶしかないのだと思う。

表現をしたい。こう書くと高尚なことに聞こえるけれど、考えるのが好きで、作るのが好きで、けれど表に出すのが苦手で。

でも、このごろ、いよいよ残したくなってきたのだ。このままだと、後ろを振り返っても何もない。そのことが少し恐ろしく、残念に思えてきたから。

よく「何がしたいかわからない」と問うたとき、「子どもの頃に夢中になっていたことを思い出しましょう」などと返される。それならば、私の答えは「音楽を作ること」だ。

でも、そこでも「正しいこと」を探し続けてきたし、人と比較して自らに指を差した。これが劣っている、これが足りない、と。そして、作ることを諦めた。

けれど、年齢を重ねて、ここに来て再び音楽を作り出した。そして、勇気を出して作ったものをひっそりと表に出してみた。そこで気がついた。

私が良いと思うものと人が良いと思うものは違う。

どれだけ力作を出しても誰も振り返らないこともあるし、走り書きのようなものが人に響くこともある。また、新しいものがいいわけでもない。表に出すことを積み重ねることで、過去に作ったものが光を浴びることがある。

表に出さないとわからないことがある。そして、表に出さなければ何も残らない。そう気づいた。

こんなことはもっと若いときに気づくことなのかもしれない。気がつきたかったと思う。けれど、いまからでも遅くないのだ。まだ、残せる。それが誰かに届いて何かが響くことを願いたい。だから、作り続けて表に出して、積み重ねていきたい。

そして、音楽とともに、やはり言葉でも残していきたいと思うようになった。

思えば、音楽を作ることから離れたとき、ひたすら言葉を書き連ねていた。インターネット上のあちこちに文章を残していた。誰かに見せたいわけでもなかった。見られるとも思っていなかった。ただ、書きたかったから書いた。

いま読むと、そのときのことを、書いていないことまで思い出す。私はそれをもっと読みたいと思う。未来の私も同じだろう。そして、私以外の誰か、いまの誰かにも未来の誰かにも、もし、そう思ってもらえたら幸せだろう。

いつから、「正しいこと」や人に見られることをだんだん意識するようになったのだろう。書くことの意味を考え始めた。そこに目的がなければいけないと思い始めた。そうなると端から書けないし、表に出すことを恐れるようになる。

表に出さなければ誰からも何も言われない。けれど、誰にも響かない。

書きたかったから書いた言葉は洗練されていない。正しくないかもしれない。でも、誰にも媚びていない。「みんな」を見て書いていない。けれど、それでいい。

だから、臆することなく書けるこの場所に、言葉を積み重ねていきたいと思う。

これから、少しずつ。表に出して残していこう。

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